フィロティモス偸生記

καθεύδειν αὐτὸν οὐκ ἐῴη τὸ τοῦ Μιλτιάδου τρόπαιον.

モルトケの法則?

プロイセンの将軍モルトケによれば、人材登用は(1)能力が高いが、意欲が低い者、(2)能力も意欲も低い者、(3)能力も意欲も高い者、(4)能力は低いが、意欲は高い者の順でするべきであるとされ、これはビジネスなんかの世界では「モルトケの法則」と呼ばれているらしい。そのように考える根拠なんかは「モルトケの法則」でググればそれを紹介しているサイトやブログが腐るほどヒットするのでそちらで確認してもらいたい。

この記事の目的は別にモルトケの法則を紹介することではなく、むしろそれに疑義を呈することにある。なんとなれば、俺は「これって本当にモルトケが言ったことなの?」という疑問を持っているからだ。というのも、試しに"Moltke's law"でググってみたところヒット数は13件(2013年10月6日時点)で人材登用とMoltke's lawをからめているページはなかった。ちなみにその中の一つのページでは"Moltke's law"は"What can be misunderstood will be misunderstood. Soldiers' wisdom."(誤解されうることは誤解されるだろう。兵士の知恵。)というように解説されていた。さらに"Moltke's rule"でググってみたところ、ヒット数はさらに少ない9件(2013年10月6日時点)。ちなみに"Moltke's rule"はそのうち一つのページでは"a battle plan never survives first contact with the enemy."(戦闘計画は敵との最初の接触には耐えられない。)とあった。したがって、この調査の中では冒頭に挙げたような意味でモルトケの法則という言葉を使っているサイトは見つからなかった。それゆえ、少なくとも英語圏ではこの言葉は冒頭に挙げたような意味では(全く存在しないとまでは言わないまでも)あまり人口に膾炙していないということになる。にもかかわらず、日本のビジネスの世界でここまで人口に膾炙している言葉が全く海外で用いられていないというのはいかにも不自然である。

そういうわけで俺は以下のような二つの仮説を立ててみた。

(1)この「モルトケの法則」というのは「メラビアンの法則」のように何かしらの出典があるものの、誰かが聞きかじりの知識で不正確な仕方でに拾ってきて、それが広まったものである(参考:反社会学講座 第9回 ひきこもりのためのビジネスマナー講座)。

(2)昔からある教訓に誰か(上記の検索結果からすれば日本人が有力)が権威づけのためにもっともらしい名前を与えたものである。

このいずれの仮説が正しいのか、あるいは間違っているのかは分からないし、俺としては面倒なのでこれ以上調べるつもりもない。とはいえ、いずれにせよ以上の簡単な調査の結果から言えることは、「モルトケの法則」というのは素性のよく分からない与太話なので、あんまりしたり顔で人に話しているとそのうち恥をかくかもしれない、ということだろうか。