フィロティモス偸生記

καθεύδειν αὐτὸν οὐκ ἐῴη τὸ τοῦ Μιλτιάδου τρόπαιον.

古典の翻訳

ちょっと気が向いてグロティウスの『戦争と平和の法』の邦訳がないかなとAmazonで調べてみたところ、研究書や解説書は何冊かあったけど、『戦争と平和の法』の邦訳がなかった。Wikipediaを見ても邦訳はないっぽい。

そういえば、ちょっと前にもラッセル著作集なんてものもあるんだから、多分あるだろうと思ってラッセルの『プリンキピア・マテマティカ』の邦訳を探した時も全訳がなかった時には愕然としたものだ。

 

概説書を読んで知識を得るのもいいけど、古典に直に触れるのもそれはそれで一つの楽しみだし、その時代を生きた著者の熱意や問題意識、息遣いを感じることができるから、俺としては教科書に載っているようなメジャーな古典は一通り最低限日本語でも読めてしかるべきだと思う。

出版社としては読む人が少なさそうな古典なんかを出版するよりも売れ筋の本を出版する方が都合がいいんだろうし、研究者たちも古典の翻訳をして同業者から誤訳なんかをチクチク指摘されるのは嫌なんだろう。特に理系の学者なんかは最新の研究で手いっぱいで手間暇かけて昔の本なんか訳していられない(特に中世と近世ヨーロッパではラテン語が学術語なので、ラテン語を本格的に勉強していない最近の科学者はなおさら難しいだろう)のかもしれないけど。それでもなお国民が基本的な古典に母語でアクセスできないままにしておき、教科書や解説書を読んで興味を持った人をそこで足止めするのはかなりひどい怠慢だと思うし、出版の社会的役割がうんぬんかんぬんとなるんじゃないかと思う。

 

その点、京都大学出版会の西洋古典叢書のシリーズは本当に素晴らしい。企画者に喝采を送りたい。「西洋の「知」の源泉であるギリシア・ラテンの主要な著作・作品を可能な限り網羅し、諸外国のこの種の叢書に匹敵する、西洋古典の一大書林の形成をめざした」というのだから、完結すれば一通り日本語で西洋古典の名作を読めることになる。古代史好きとしては涙が出るほどに嬉しい。これこそ学術出版の鑑だ。

まあ出版ペースが遅いのが玉に傷だけどね。特にリウィウスなんていつになったら完結するんだか。リウィウスは全14冊の予定で、2008から2012までの4年間で3冊出てるようだけど、あと11冊を出版するのには単純に計算してあと15年前後はかかりそうだ。だが、贅沢は言わずにじっと待つことにしよう。